草案を比べる(日本国憲法)

日本国憲法

前文

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

第1章 天皇

第1条〔天皇の地位と主権在民〕

天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

第2条〔皇位の世襲〕

皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

第3条〔内閣の助言と承認及び責任〕

天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

第4条〔天皇の権能と権能行使の委任〕

天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

第5条〔摂政〕

皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。

第6条〔天皇の任命行為〕

天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

第7条〔天皇の国事行為〕

天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。

第8条〔財産授受の制限〕

皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。

第2章 戦争放棄

第9条〔戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認〕

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

第3章 国民の権利及び義務

第10条〔国民たる要件〕

日本国民たる要件は、法律でこれを定める。

第11条〔基本的人権〕

国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

第12条〔自由及び権利の保持義務と公共福祉性〕

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第13条〔個人の尊重と公共の福祉〕

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第14条〔平等原則、貴族制度の否認及び栄典の限界〕

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

第15条〔公務員の選定罷免権、公務員の本質、普通選挙の保障及び投票秘密の保障〕

公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

第16条〔請願権〕

何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

第17条〔公務員の不法行為による損害の賠償〕

何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

第18条〔奴隷的拘束及び苦役の禁止〕

何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

第19条〔思想及び良心の自由〕

思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

第20条〔信教の自由〕

信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

第21条〔集会、結社及び表現の自由と通信秘密の保護〕

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

第22条〔居住、移転、職業選択、外国移住及び国籍離脱の自由〕

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

第23条〔学問の自由〕

学問の自由は、これを保障する。

第24条〔家族関係における個人の尊厳と両性の平等〕

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

第25条〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕

すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

第26条〔教育を受ける権利と受けさせる義務〕

すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

第27条〔勤労の権利と義務、勤労条件の基準及び児童酷使の禁止〕

すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3 児童は、これを酷使してはならない。

第28条〔勤労者の団結権及び団体行動権〕

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

第29条〔財産権〕

財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

第30条〔納税の義務〕

国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。

第31条〔生命及び自由の保障と科刑の制約〕

何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

第32条〔裁判を受ける権利〕

何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。

第33条〔逮捕の制約〕

何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

第34条〔抑留及び拘禁の制約〕

何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

第35条〔侵入、捜索及び押収の制約〕

何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

第36条〔拷問及び残虐な刑罰の禁止〕

公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。

第37条〔刑事被告人の権利〕

すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

第38条〔自白強要の禁止と自白の証拠能力の限界〕

何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

第39条〔遡及処罰、二重処罰等の禁止〕

何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

第40条〔刑事補償〕

何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

第4章 国会

第41条〔国会の地位〕

国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

第42条〔二院制〕

国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。

第43条〔両議院の組織〕

両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
2 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

第44条〔議員及び選挙人の資格〕

両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

第45条〔衆議院議員の任期〕

衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。

第46条〔参議院議員の任期〕

参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。

第47条〔議員の選挙〕

選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

第48条〔両議院議員相互兼職の禁止〕

何人も、同時に両議院の議員たることはできない。

第49条〔議員の歳費〕

両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。

第50条〔議員の不逮捕特権〕

両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

第51条〔議員の発言表決の無答責〕

両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。

第52条〔常会〕

国会の常会は、毎年一回これを召集する。

第53条〔臨時会〕

内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

第54条〔総選挙、特別会及び緊急集会〕

衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
3 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。

第55条〔資格争訟〕

両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

第56条〔議事の定足数と過半数議決〕

両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
2 両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

第57条〔会議の公開と会議録〕

両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。
3 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。

第58条〔役員の選任及び議院の自律権〕

両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

第59条〔法律の成立〕

法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

第60条〔衆議院の予算先議権及び予算の議決〕

予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
2 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

第61条〔条約締結の承認〕

条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。

第62条〔議院の国政調査権〕

両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

第63条〔国務大臣の出席〕

内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

第64条〔弾劾裁判所〕

国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

第5章 内閣

第65条〔行政権の帰属〕

行政権は、内閣に属する。

第66条〔内閣の組織と責任〕

内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

第67条〔内閣総理大臣の指名〕

内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
2 衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

第68条〔国務大臣の任免〕

内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。

第69条〔不信任決議と解散又は総辞職〕

内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

第70条〔内閣総理大臣の欠缺又は総選挙施行による総辞職〕

内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。

第71条〔総辞職後の職務続行〕

前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。

第72条〔内閣総理大臣の職務権限〕

内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。

第73条〔内閣の職務権限〕

内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。

第74条〔法律及び政令への署名と連署〕

法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。

第75条〔国務大臣訴追の制約〕

国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。

第6章 司法

第76条〔司法権の機関と裁判官の職務上の独立〕

すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

第77条〔最高裁判所の規則制定権〕

最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。

第78条〔裁判官の身分の保障〕

裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。

第79条〔最高裁判所の構成及び裁判官任命の国民審査〕

最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
4 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
5 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
6 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

第80条〔下級裁判所の裁判官〕

下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

第81条〔最高裁判所の法令審査権〕

最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

第82条〔対審及び判決の公開〕

裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

第7章 財政

第83条〔財政処理の要件〕

国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

第84条〔課税の要件〕

あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

第85条〔国費支出及び債務負担の要件〕

国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。

第86条〔予算の作成〕

内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。

第87条〔予備費〕

予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
2 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

第88条〔皇室財産及び皇室費用〕

すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。

第89条〔公の財産の用途制限〕

公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

第90条〔会計検査〕

国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。

第91条〔財政状況の報告〕

内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。

第8章 地方自治

第92条〔地方自治の本旨の確保〕

地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

第93条〔地方公共団体の機関〕

地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

第94条〔地方公共団体の権能〕

地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

第95条〔一の地方公共団体のみに適用される特別法〕

一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

第9章 改正

第96条〔憲法改正の発議、国民投票及び公布〕

この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

第10章 最高法規

第97条〔基本的人権の由来特質〕

この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

第98条〔憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守〕

この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

第99条〔憲法尊重擁護の義務〕

天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

第11章 補則

第100条〔施行期日と施行前の準備行為〕

この憲法は、公布の日から起算して六箇月を経過した日〔昭二二・五・三〕から、これを施行する。
2 この憲法を施行するために必要な法律の制定、参議院議員の選挙及び国会召集の手続並びにこの憲法を施行するために必要な準備手続は、前項の期日よりも前に、これを行ふことができる。

第101条〔参議院成立前の国会〕

この憲法施行の際、参議院がまだ成立してゐないときは、その成立するまでの間、衆議院は、国会としての権限を行ふ。

第102条〔参議院議員の任期の経過的特例〕

この憲法による第一期の参議院議員のうち、その半数の者の任期は、これを三年とする。その議員は、法律の定めるところにより、これを定める。

第103条〔公務員の地位に関する経過規定〕

この憲法施行の際現に在職する国務大臣、衆議院議員及び裁判官並びにその他の公務員で、その地位に相応する地位がこの憲法で認められてゐる者は、法律で特別の定をした場合を除いては、この憲法施行のため、当然にはその地位を失ふことはない。但し、この憲法によつて、後任者が選挙又は任命されたときは、当然その地位を失ふ。

西修

西修ゼミナール、駒澤大学

「平成憲法草案」1
1991年11月3日作成/1994年11月3日再作成


前文

日本国憲法が昭和二十二年五月三日に施行されてから今日にいたるまで、国の内外の事情は、大きく変貌した。日本国は、敗戦の廃墟から立ち上がり、国民の勤勉によって、経済的に豊かな国となった。基本的権利も国民に定着した。国際社会にあっては、国際連合を中心に国際平和が再構築されつつある。われらは、このような方向を歓迎するものである。

他方で、経済的豊かさと精神的豊かさとの調和、家族の絆、文化的遺産の継承、環境と生態系の保護、国際平和への寄与、社境と生態系の保護、国際平和への寄与、社会正義の実現、および社会福祉の一層の充実が緊要とされている。

われらは、日本国憲法が施行された後の変革にかんがみ、日本国憲法に示されている国民主権、恒久平和、および基本的人権の尊重の基本原理を確認し、さらにこれらを発展させるために、新たな憲法を制定する。

われらは、過去を厳しく見つめ、現在と将来の国民の幸福を願い、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な目的を達成することを誓う。


第1章 天皇

第1条 
日本国の主権は、日本国民に存し、天皇は、日本国民の意思にもとづき、日本国の象徴的国家元首としての地位を有する。

第2条 
皇位は、男女の別を問わず、世襲とし、国会の議決した皇室法の定めるところにより、継承する。

3 
天皇は、この憲法で定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。
2 天皇の国事に関する行為は、すべて内閣の助言と承認を必要とし、内閣が責任を負う。

第4条 
天皇が未成年または皇室法の定める場合に、摂政を置くことができる。
2 摂政の行為については、前条の規定を準用する。

第5条 
天皇は、国会の指名にもとづき、内閣総理大臣を任命する。
2    天皇は、国会の指名にもとづき、国会議長を任命する。
3    天皇は、内閣の指名にもとづき、最高裁判所長官を任命する。

第6条 
天皇は、内閣の助言と承認により、象徴的国家元首としての公的行為のほか、次の国事に関する行為を行う。
一 憲法改正、条約、法律、及び政令を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 国会を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 憲法の定めるところにより、国民投票の施行を公布すること。
六 恩赦を行うこと。
七 全権委任状ならびに外国へ派遣する大使および公使の信任状を発すること。
八 外国からの大使および公使の信任状を受け取ること。
九 国の儀式を行ふこと。

第7条 
皇室財産は、国会の議決にもとづき、管理される。


第2章 戦争の放棄〈第I案〉

第8条 
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。


第2章 国際平和への寄与および独立の保持〈第II案〉

第8条 
日本国は、国際の平和と安全を維持するために、平和に対する脅威の防止と除去に努め、侵略行為その他の国際平和の破壊行為に対しては、国際連合憲章の目的にしたがい、必要な措置を講ずるものとする。
2 日本国は、国際紛争を平和的手段によって解決し、戦争と武力による威嚇または武力の行使は、他国の領土保全または他国民の自由を圧迫する手段としては、絶対に否認する。
3 戦争を美化し、または宣伝することは、禁止する。

第9条
日本国の独立と安全を保持し、かつ国際平和に寄与するため、自衛隊を置く。
2 自衛隊は、いかなる場合においても、文民統制に服する。


第3章 国民の権利および義務

10
すべて人間は、生まれながらにして、自由かつ平等であり、その尊厳を侵されることはない。
2 この憲法が国民に保障する人権は、民主主義社会における公共の福祉によるほか、制限されることはない。
3 この憲法が国民に保障する人権の外国人への適用は、法律で定める。
4 この憲法が特定の権利を保障する事実をもって、人間が本来有している他の権利を軽視または否認したものと解釈してはならない。

第11条 
すべての国民は、法の前に平等であって、人種、性別、宗教、政治的意見、社会的出身、教育、財産またはこれに類するいかなる事由によっても、差別されない。

第12条 
すべての国民は、成人に達することにより、選挙権および被選挙権を有する。
2 すべての国民は、直接または選挙された代表者を通じて、政治に参加する権利を有する。

第13条 
すべての国民は、信教の自由を有する。
2 いかなる宗教団体も、国家的性格をもってはならず、また政治権力を行使してはならない。

第14条 
すべての国民は、平穏に集会し、および結社の権利を有する。

第15条 
すべての国民は、表現の自由を有し、情報に接し、およびこれを入手する権利を有する。
2 検閲は、禁止される。

第16条 
すべての国民は、学問の研究およびその発表の自由を有する。

第17条 
すべての国民は、自己の私事、家庭、住居および通信に対して恣意的に干渉されることはなく、またその人格および名誉を尊重される権利を有する。

第18条 
すべての国民は、居住および移転の自由を有する。
2 すべての国民は、外国に移住し、日本国籍を離脱する自由を有する。ただし、日本国籍を離脱する場合は、外国の国籍を取得しなければならない。

第19条 
すべての国民は、営業および職業選択の自由を有する。

第20条 
すべての国民は、財産権を侵されない。
2 法律は、財産権の内容に関し、社会的衡平と公共の福祉の見地から、制限を課すことができる。

第21条
すべての国民は、法律の定める適正な手続きによらなければ、生命、自由および身体の安全に対する権利を侵されない。

第22条
すべての国民は、拷問、残虐または非人道的な取扱いまたは刑罰を受けることはない。

23条
すべての国民は、公権力によって、正当な理由なくして、逮捕または拘禁されることはない。

第24条
すべての国民は、裁判を受ける権利を有する。

第25条
すべての刑事事件においては、刑事被告人は、公平な裁判所において、迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 すべての刑事被告人は、有罪の確定判決が下されるまで、無罪の推定を受ける。

第26条
すべての国民は、自己に不利益な供述を強要されることはない。

第27条
すべての国民は、犯罪を構成しなかった行為について、刑事上の責任を問われることはない。また、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われることはない。

第28条 
すべての国民は、公務員の不法行為により損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国または地方公共団体に損害賠償を求めることができる。第29条すべての国民は、逮捕または拘禁された後、無罪の確定判決を受けたときは、法律の定めるところにより、国に補償を求めることができる。

第29条
すべての国民は、逮捕または拘禁された後、無罪の確定判決を受けたときは、法律の定めるところにより、国に補償を求めることができる。

第30条
婚姻は、当事者の自由かつ完全な合意のみによって成立し、夫婦が平等の権利を有することを基本として、相互の信頼と協力により維持されなければならない。
2 家庭は、社会の自然的かつ基礎的単位であって、国は、その存在を尊重しなければならない。

第31条
国は、すべての国民が相当程度の生活水準を維持することができるように、生活保護および社会福祉その他の生活部面の向上と推進に努めなければならない。

第32条
国は、すべての国民が身体および精神の健康を維持することができるように、医療施設および公衆衛生その他の健康部面の拡充と増進に努めなければならない。

第33条
国は、環境保全および生態系の保護に努めなければならない。

第34条
国は、すべての国民が文化的な生活を営むことができるように、科学、文学、芸術その他の文化部面の拡充と増進に努めなければならない。

第35条
国は、とくに高齢者、身体不自由者、妊産婦に配慮しなければならない。
2 国は、児童および年少者が身体的および精神的に健全な発展を遂げるように配慮しなければならない。

第36条
国は、すべての国民が能力に応じて、ひとしく教育を受けることができるようにしなければならない。
2 義務教育は、無償とする。
3 国は、生涯教育を振興しなければならない。

第37条
国は、すべての国民が公正な勤労条件を確保し、および失業に対する保護を受けることができるように努めなければならない。

第38条
すべての勤労者は、組合を結成し、使用者と団体交渉をし、その他の団体行動をとる権利を保障される。

第39条
すべての国民は、この憲法および法律を遵守する義務を負う。

第40条
すべての国民は、納税の義務を負う。

第41条
すべての国民は、その保護する児童に教育を受けさせる義務を負う。


第4章 立法権

第42条
立法権は、一院のみから成る国会に属する。

第43条
国会議員の定数は、法律で定める。ただし、各選挙区において、有権者の投票の価値をできるかぎり平等にするように努めなければならない。
2 国会は、各選挙区に公正な定数を配分するため、国会議員以外から成る選挙区委員会を設けることができる。この場合、国会は、選挙区委員会の決定を尊重しなければならない。
3 選挙区委員会の構成および運営方法については、法律で定める。

第44条
国会議員の任期は、四年とする。ただし、解散の場合には、その期間満了前に終了する。

第45条
国会議員の任期が満了したき、または国会が解散されたときは、任期満了の日または解散の日から二十日以後四十日以内に総選挙を行い、その選挙の日から十五日後に国会が召集されなければならない。
2 国会議員の選挙中に、国に緊急の事態が生じたときは、内閣は、前国会議員を召集し、国会の審議に代えることができる。ただし、その採られた措置は、総選挙後に召集された国会で十日以内に承認されないかぎり、無効となる。

第46条
国会は、普通、平等、直接、秘密選挙の原則を遵守して選挙された議員で組織される。
2 選挙区、投票の方法、その他選挙に関する事項は、法律で定める。

第47条
政党その他の政治団体は、選挙における国民の意思形成に協力する。
2 政党その他の政治団体の設立および活動は、この憲法および法律を遵守するかぎりにおいて、自由とする。政党その他の政治団体の違憲の問題については、憲法審査会が裁決する。

第48条
国会議員は、国民全体を代表する者であって、選挙民の委任および指示に拘束されることはない。
2 国会議員は、国民の付託に応えるため、腐敗および不正行為をなしてはならない。

第49条
国会議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。

第50条
国会議員は、法律の定める場合を除いて、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、国会の要求があれば、会期中、釈放されなければならない。

第51条
国会議員は、国会内で行った演説、討論または表決について、国会外で責任を問われることはない。

第52条
国会の常会は、毎年二回、召集されるものとする。

第53条
内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。また内閣は、国会の総議員の四分の一以上の要求があれば、臨時会の召集を決定しなければならない。

第54条
国会は、その議員の資格に関する争訟を決定する。ただし、議員の資格を失わせるには、出席議員の三分の二以上の議決を必要とする。

第55条
国会は、その総議員の過半数の出席がなければ、議事を開き、かつ議決をしてはならない。
2 国会の議事は、この憲法に特別の規定がある場合を除いて、出席議員の過半数で決し、可否同数のときは、否決とみなす。
3 国会は、総議員の五分の二以上の要求があれば、審議が終了してから議決にいたるまでのあいだに、十日間の冷却期間を設けることができる。

第56条
国会の会議は、公開とする。ただし、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2 国会は、その会議の議事録を保管し、秘密会の記録のなかでとくに秘密を要すると認められるもの以外は、公表し、かつ一般に頒布しなければならない。
3 各議員の表決は、出席議員の五分の一以上の要求があれば、議事録に記載しなければならない。

第57条
国会は、その議長その他の役員を選任する。
2 国会は、その会議その他の手続きおよび内部の規律に関する規則を定め、また国会内の秩序をみだした議員を懲罰に付することができる。ただし、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

第58条
国会は、国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭および証言、ならびに記録の提出を求めることができる。ただし、この調査に際しては、個人の人権を最大限に尊重しなければならない。

第59条
国会は、裁判官の罷免について審査するため、国会議員で組織する裁判官訴追審査会を設置することができる。
2 裁判官訴追審査会に関する事項については、法律で定める。


第5章 行政権

第60条
行政権は、内閣に属する。

第61条
内閣は、法律の定めるところにより、内閣総理大臣、内閣副総理大臣およびその他の国務大臣で組織される。
2 内閣総理大臣は、内閣の首長とする。内閣総理大臣が欠けたときは、内閣副総理大臣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで、その職務を代行する。
3 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

第62条
内閣総理大臣は、国会議員のなかから、国会の議決で指名される。この指名は、他のすべての事項に先だって、行われるものとする。

第63条
内閣総理大臣は、内閣副総理大臣およびその他の国務大臣を任命する。ただし、その過半数は、国会議員のなかから選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、内閣副総理大臣その他の国務大臣を任意に罷免することができる。

第64条
内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。
2 内閣は、国会で不信任の決議案が可決されたとき、または信任の決議案が否決されたときは、十日以内に国会を解散しないかぎり、総辞職しなければならない。
3 内閣に対する不信任の決議案または信任の決議案は、国会の総議員の過半数で議決する。

第65条
国会議員の総選挙後、初めて国会が召集されたときは、内閣は、総辞職しなければならない。

第66条
前二条により、内閣が総辞職したときは、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで、その職務を継続して行う。

第67条
内閣総理大臣、内閣副総理大臣およびその他の国務大臣は、内閣が提出した議案について発言するため、いつでも国会に出席することができる。また、答弁または説明のため、国会により出席を求められたときは、出席しなければならない。

第68条
内閣総理大臣は、内閣を代表して、法律案その他の議案を国会に提出し、一般国務および外交関係について国会に報告し、ならびに行政各部を指揮監督する。

第69条
内閣は、一般行政事務のほか、次の業務を行う。
一 法律を誠実に執行し、一般国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。ただし、事前に、場合によっては事後に、国会の承認を得なければならない。
四 予算案を作成して、国会に提出すること。
五 国会が議決した法律案に対して拒否権を行使すること。ただし、この拒否が、国会において、出席議員の五分の三以上の多数により、くつがえされた時は、その法律案は、法律となる。
六 国の重要事項について、国民投票の施行を決定すること。
七 法律の定める基準にしたがい、公務員に関する業務を管理すること。
八 法律の規定を実施するため、政令を定めること。ただし、政令には、法律の定める場合を除いては、罰則を設けることはできない。
九 国の安全または国民の生命もしくは財産に重大な影響をおよぼす恐れのある緊急事態が発生したときに、緊急事態命令を発すること。ただし、事前に場合によっては事後に、国会の承認を得ることができないときは、緊急事態命令は、解除される。

第70条
法律および政令には、主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。

第71条
内閣総理大臣その他の国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。ただし、そのために、訴追の権利は害されない。


第6章 司法権

第72条
司法権は、最高裁判所および法律の定めるところにより設置される下級裁判所に属する。

第73条
すべての裁判官は、独立してその職権を行い、この憲法および法律にのみ拘束される。

第74条
条約または法律が憲法に適合しているかどうかが裁判の前提となった場合は、裁判所は、当該条約または法律を憲法審査会に提示し、その決定を受けて、裁判を行う。
2 命令、規則または公機関の行う処分が憲法または法律に適合するかどうかが前提となった場合は、最高裁判所が最終的に審査する権限を有する。

第75条
最高裁判所は、訴訟に関する手続き、弁護士、裁判所の内部規律および司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を下級裁判所に委任することができる。
3 検察官は、最高裁判所または下級裁判所の定める規則に従わなければならない。

第76条
最高裁判所は、その長たる裁判官および法律で定める員数のその他の裁判官で構成され、長たる裁判官以外の裁判官は、内閣により、任命される。最高裁判所のすべての裁判官の任期を十年とし、再任されることができる。ただし、法律で定める年令に達したときに退官する。

第77条
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所が推薦した者の名簿のなかから、裁判官選定会議の選定を経て、内閣により、任命される。下級裁判所の裁判官の任期を十年とし、再任されることができる。ただし、法律で定める年令に達したときに退官する。

第78条
裁判官選定会議は、次の者から構成される。
一 国会が国会議員外から選任した五名の委員。
二 裁判官を代表する五名の委員。
三 内閣が裁判官以外の法曹界から選任する三名の委員。
2 裁判官選定会議は、次の職権を行う。
一 最高裁判所裁判官を内閣に対して推薦すること。
二 最高裁判所の推薦した名簿のなかから、下級裁判所裁判官を選定すること。
三 裁判官が心身の故障により、職務をとることができなくなったと決定すること。
四 国会に設置されている訴追審査会から訴追された裁判官を罷免すること。ただし、罷免の決定を行うには、委員の三分の二以上が出席し、かつその三分の二以上の同意を必要とする。
3 裁判官選定会議に関する事項は、法律で定める。

第79条
最高裁判所および下級裁判所のすべての裁判官は、定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、減額されることはない。

第80条
裁判の対審および判決は、公開法廷で行う。
2 裁判所が、全員一致で、公の秩序または善良の風俗を害する恐れがあると決した場合には、対審は、公開しないで行うことができる。ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪またはこの憲法第3章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は、常に公開しなければならない。


第7章 憲法の保障

第81条
この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する条約、法律、命令、規則および国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない。

第82条
この憲法の最高法規性を保障するため、憲法審査会を設置する。
2 憲法審査会は、次の事項について審査する。
一 条約または法律の合憲性に関する争訟。
二 国家機関間および国と地方公共団体との間の管轄権をめぐる争訟゜
三 政党の合憲性に関する争訟。
3 憲法審査会が前項第一号に掲げた争訟において、憲法に適合しないと判断したときは、その条規は、決定の日の翌日から効力を失う。
4 憲法審査会の決定については、上訴権は認められない。

第83条
憲法審査会は、次の者から構成される。
一 最高裁判所によって選任される七名の審査委員。
二 国会によって選任される四名の審査委員。
三 内閣によって選任される四名の審査委員。
2 憲法審査会の審査委員は、退職者を含め裁判官、検察官、大学の法律学専門教授または二十年以上の実務経験を有する弁護士のなかから選任されなければならない。
3 憲法審査会の審査委員長は、審査委員の互選によって選出される。
4 憲法審査会の審査委員の任期は、十二年とし、四年ごとに三分の一ずつ改選される。
5 憲法審査会の審査委員は、在任中、他のいかなる国家機関にも所属してはならない。

第84条
憲法審査会への提訴権者ならびに憲法審査会の組織および運営方法については、法律で定める。


第8章 財政

第85条
国の財政は、すべて国会の議決にもとづいて処理されなければならない。

第86条
租税、国が国権にもとづいて収納する課徴金および国の独占事業における専売価格または料金の決定および変更は、法律または国会の議決によらなければならない。

第87条
国費の支出および国の財政公債の発行は、国会の議決を必要とする。

第88条
内閣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会の承認を得なければならない。
2 内閣は、特別の必要があると認めた場合には、年限を定めて、継続費を作成し、国会の承認を求めることができる。
3 前二項で国会の承認を得ることができないときは、内閣は、暫定の用に供するため、一定期間を区切って、暫定予算を作成し、国会に提出することができる。

第89条
内閣は、予見することが困難な予算の不足に充てるため、国会の議決にもとづき、予備費を設けることができる。
2 予備費の支出は、内閣が責任をもって行い、事後に国会の承認を求めなかればならない。

第90条
国の決算は、毎年、会計検査院が検査し、内閣に報告する。内閣は、次の年度に、会計検査院の検査報告を国会に提出しなければならない。
2 会計検査院は、内閣から独立の地位を有するものとし、その組織および権限は、法律で定める。


第91条
内閣は、国民および国会に対し、定期に少なくとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。


第9章 地方自治

第92条
国は、地方公共団体および住民の自治を尊重する。
2 地方行政を円滑にするため、地方公共団体を設置する。
3 地方公共団体は、住民の意思を尊重し、国と協力して、住民に対し、福祉の増進に努めなければならない。

第93条
地方公共団体は、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員および法律の定めるその他の地方公務員は、その地方公共団体の住民により、直接に選挙される。地方公共団体の住民は、これらの公務員に対し、解職請求権を有する。

第94条
地方公共団体は、法律の趣旨に反しないかぎり、条例を制定することができる。

第95条
国会は、一または特定の地方公共団体のみに適用される特別法を制定することができる。ただし、国会は、この特別法を制定する前に、その地方公共団体の住民により、投票において、その有効投票の過半数の同意を得ていることを確認しなければならない。


第10章 憲法の改正


第96条
憲法改正の発案は、内閣または国会議長により任命された憲法改正特別委員会が行う。憲法改正特別委員会は、必要な場合に随時協議するほか、十年に一度定期的に審議する。
2 内閣または憲法改正特別委員会によって発案された憲法改正案は、国会で審議される。国会において、第1章(天皇)、第2章(戦争の放棄〈第I案〉あるいは国際平和への寄与および独立の保持〈第II案〉)、第3章(国民の権利および義務)、および第10章(憲法の改正)に関するる条項の改正案については、総議員の三分の二以上の賛成により、その他の条項の改正案については、総議員の五分の三以上の賛成により、国民に提案する。国民の投票において、有効投票の過半数の承認があれば、天皇は、国民の名で憲法改正を公布する。
3 憲法改正のために必要な事項は、法律で定める。


第11章 経過規定

第97条
この憲法は、公布の日から起算して六カ月を経過した日から、施行される。
2 この憲法を施行するために必要な法律の制定その他の準備手続きは、公布の日からできるかぎり速やかに行うものとする。

第98条
この憲法が施行される日までに、国会議員の総選挙が行われなければならない。第一回の総選挙施行後に召集される国会とともに、参議院は消滅する。

第99条
この憲法による第一期の憲法審査会のうち、その三分の一の者の任期を四年、他の三分の一の者の任期を八年、残りの三分の一の者の任期を十二年とする。

第100条
この憲法が施行されるにあたり、現に在職する国務大臣、国会議員および裁判官、ならびにその他の公務員で、その地位に相応する地位がこの憲法で認められている者は、法律で特別の定めをした場合を除いては、この憲法が施行されることにより、当然にはその地位を失うことはない。ただし、この憲法によって、後任者が選任または任命されたときは、当然にその地位を失う。