2012

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「新日本国憲法ゲンロン草案」1
2012年7月26日


前文

わたしたち日本国民は、日本国が、単一の国土と単一の文化に閉じ込められるものではなく、その多様な歴史と伝統を共有する主権者たる国民と、その国土を生活の場として共有する住民のあいだの、相互の尊敬と不断の協力により運営され更新される精神的共同体であることを宣言する。わたしたちは、その前提のもと、日本国の伝統と文化的遺産を尊重し、国際情勢の変化、および生産と流通と情報通信技術の革新を考慮したうえで、以下の四つの理念を採用し、ここに新たな憲法を定め、国家の礎を築くものである。
 

  • 一、日本は公正な国でなければならない。わたしたち日本国民は、国政の権威は国民にのみ由来し、国権は国民の信託に基づく国民の代表が、国民および住民全体の幸福のために行使するものであることを確認する。その代表者を決定する権能について、国民はいかなる理由においても差別されてはならず、また政府は、論証しうる正当な理由なく国民および住民の自由を妨げてはならない。わたしたちは、その実現のために、わたしたちの国において、すべての憲法および法令が、その理由と効果について不断の国民の検証にたえる説明責任を負うことを宣言する。
     
  • 一、日本は平和な国でなければならない。わたしたち日本国民は、恒久の平和を念願し、平和を愛する諸国民の公正と信義とを信頼して、協力して世界の安全と生存を保持するとの決意をあらためて確認する。わたしたちは、世界の諸国民が恐怖と欠乏から免れ、平和と自由のうちに生存する権利を有するとの認識に立ち、その実現のために、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努める国際社会の努力に、名誉ある役割を果たすことを希求する。
     
  • 一、日本は繁栄する国でなければならない。わたしたち日本国民は、経済的、文化的、社会的活動を広く興し、わたしたちの国が平和と安全のうちに繁栄することこそ、国民および住民の幸福の礎であることを確認する。わたしたちは、この繁栄は国民および住民の自主自律の判断に基づく選択の上に築かれることを認め、その自由な活動の振興に努め、また繁栄の果実を特定の世代にのみ独占させることなく、子孫の手に引き継ぐために尽力する。
     
  • 一、日本は開かれた国でなければならない。わたしたち日本国民は、長い歴史の中で世界中から集い、交わり、豊かなる文化と伝統の上に繁栄する国を築いた歴史を顧み、国の繁栄は、ひとえに自国のみならず、諸国民との協力の上に世界の繁栄にも与するためのものであることを確認する。この歴史を将来にわたり紡ぐため、わたしたちは、志を同じくする諸国民とともに、また国土を共有する多様な出自の住民とともに、繁栄を築き、長く歴史を歩んでいくことを決意する。

    新たな憲法は、国家の統治機構の設計と、国民および住民の基本権の保障から成っている。この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅は、いっさいその効力を有しない。また、この憲法が国民および住民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、現在および将来の国民および住民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものであることを確認する。

    わたしたち日本国民は、全力を挙げて、この憲法に定められた崇高な理想と目的を達成し、諸国民の範となることを誓う。

     


    第1部 政体

    第1章 元首

    第1条
    天皇は、日本国の象徴元首であり、伝統と文化の統合の象徴である。
    2 天皇は、日本国の伝統と文化の継承者として、過去、現在および将来の日本国民のために儀式を行う。

    第2条
    天皇の地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。

    第3条
    天皇の地位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

    第4条
    天皇の国事に関するすべての行為には、政議院の助言と承認を必要とし、政議院が、 その責任を負う。

    第5条
    天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。
    2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

    第6条
    皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行う。この場合には、前条第一項の規定を準用する。

    第7条
    天皇は、国会の指名に基づいて、総理を任命する。
    2 天皇は、国会の指名に基づいて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

    第8条
    天皇は、国会の助言と承認により、次の国事に関する行為を行う。
    一 国会を召集すること。
    二 栄典を授与すること。
    三 外国の大使および公使を接受すること。
    四 全権委任状および大使および公使の信任状を認証すること。
    五 批准書および法律の定めるその他の外交文書を認証すること。

    第9条
    皇室に財産を譲り渡し、または皇室が、財産を譲り受け、もしくは賜与することは、国会の議決に基づかなければならない。

    第10条
    総理は、日本国の統治元首であり、行政権の最終責任者である。

    第11条
    総理は、日本国憲法の実現者として、この憲法で保障される国民および住民の自由と権利を実現するため、政府を指揮して国を運営する。
    2 総理は、憲法に反する権能を持たず、その行為は国会の法律に拘束される。
    3 総理は、国を運営する費用として、法律の定めるところにより徴税する。

    第12条
    総理は、日本国籍の保持者でなければならない。

    第13条
    総理は、法律の定めるところによる日本国民の直接投票によって、国民の中から国会が指名する。
    2 総理の任期は、法律によって定める。

    第14条
    総理は、政議院を代表して議案を国会に提出し、一般国務および外交関係を計画実行し、その過程および結果について国会に報告する義務を負い、ならびに行政各部を指揮監督する。

    第15条
    総理は、前条に定めた職務のほか、次の事務を行う。
    一 憲法改正、法律、政令および条約を公布すること。
    二 住民院を解散すること。
    三 国会議員の選挙の施行を公示すること。
    四 省長および法律の定めるその他の公務員を任免すること。
    五 条約を締結すること。ただし、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
    六 法律の定める基準に従い、人事院長と協力して公務員に関する事務を掌理すること。
    七 予算を作成して国会に提出すること。
    八 この憲法および法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
    九 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除および復権を決定すること。


    第2章 統治

    第16条
    日本国民は、日本国籍を有する者を言う。

    第17条
    日本住民は、法律で定める期間、日本国土に適法に継続的に居住する者を言う。

    第18条
    国民および住民は、国際紛争を解決する手段としては、武力による威嚇または武力の行使は、永久にこれを放棄する。国の交戦権は、これを認めない。

    第19条
    国民および住民は、生命、自由ならびに財産の保全を脅かす自然災害と人的災害に対して、国民および住民それぞれの能力に応じ、自衛ならびに相互援助する権利を有する。

    第20条
    国民および住民は、前条の目的を達するため、自衛隊を設立する。
    2 自衛隊は、国際相互援助の精神に則り、法律の制限および諸国民の同意のもとで、国外においても活動しうる。

    第21条
    国民および住民は、法律の定めるところにより、公務員を選定し、およびこれを罷免する。
    2 すべての公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
    3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

    第22条
    総理および国会議員の選挙に関する事項は、選挙人たる日本国民または日本住民が居住地、世代、性別、人種、信条、社会的身分、門地、教育、財産または収入によって差別されることなく、等しくその権利を行使できるよう、法律でこれを定める。

    第23条
    統治について、国民および住民は、基礎自治体と国に運営を委託する。

    第24条
    基礎自治体は、住民の生存、生活、出産養育の支援および教育の実施など、地域共同体の運営と維持に関する事項について条例を制定し、その事務を行う。ただし、法律で国に授権された事項についてはそのかぎりではない。
    2 国は、国家の存立に関する事項、国家として対外的に代表すべき事項および国民と住民の福祉の向上に関する事項について法律を制定し、その事務を行う。

    第25条
    基礎自治体は、住民自治と団体自治を原則とし、運営の組織と形式は住民の総意と創意に基づき選択する。

    第26条
    基礎自治体は、必要に応じて連携して運営にあたることができる。
    2 基礎自治体は住民の総意に基づき、憲章を設けることで広域行政体を担う組織を設置することができる。

    第27条
    基礎自治体および広域行政体が定める条例と、法律の適用に関する優先順位およびその他の通則は、法律でこれを定める。
    2 基礎自治体および広域行政体の組織および運営に関する事項は、条例および法律でこれを定める。


    第3章 行政

    第28条
    総理の権能を行うために必要な行政の組織は、この憲法のほか、法律でこれを定める。

    第29条
    総理は、日本国籍を有する者の中から、各省の長たる省長を任命する。また、総理は各省長を任意に罷免することができる。
    2 総理および各省長ならびに各省長に準ずる者として法律の定めるところにより総理が指名した者を政議とし、総理はその会議として政議院を組織する。
    3 政議は、文民でなければならない。
    4 政議院は、総理の指揮のもと、総理が国会に提出する行政の計画のほか、法律が定める重要事項について決定を行う。

    第30条
    政議院は、住民院で総理の不信任の決議案を可決し、または信任の決議案を否決したときは、一〇日以内に住民院が解散されないかぎり、総辞職をしなければならない。

    第31条
    総理が欠けたとき、または住民院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったときは、政議院は、総辞職しなければならない。

    第32条
    前二条の場合には、政議院は、あらたに総理が任命されるまで引き続きその職務を行う。

    第33条
    法律および政令には、すべて主任の省長が署名し、総理が連署することを必要とする。

    第34条
    政議は、その在任中、総理の同意がなければ、訴追されない。ただし、これがため、訴追の権利は、害されない。

    第35条
    行政の特別機関として、監察院および人事院を設ける。
    2 監察院および人事院に長を置き、その事務を総覧させる。
    3 総理は、監察院および人事院の所掌に関する事務について、それぞれ監察院長および人事院長に公開の指示をできるのみにとどまり、これに代わって決定を行うことができない。
    4 監察院長および人事院長は政議となることができない。

    第36条
    人事院は、国家公務員の人事を司る。
    2 人事院長は、成人たる日本国民のうちから、住民院が議決によりこれを指名する。
    3 人事院長の任期は、四年とする。何人も、八年を超えて人事院長の任に就くことはできない。

    第37条
    人事院は、専ら次の事務を行う。
    一 国家公務員の人事の制度に係る法律案を国会に提出すること。
    二 国家公務員の人事の制度に係る命令の制定に関すること。
    三 政議院と協力し、国家公務員の任免および異動を行うこと。
    四 前号のうち、重要なものとして法律で定められたものに関して、国民院にその同意を求めること。
    五 政議院と協力し、国家公務員の賞罰の決定を行うこと。

    第38条
    監察院は、行政の監察を司る。
    2 監察院長は、成人たる日本国民のうちから、国民院が議決によりこれを指名する。
    3 監察院長の任期は、六年とする。何人も、六年を超えて監察院長の任に就くことはできない。

    第39条
    監察院は、専ら次の事務を行う。
    一 政議院および人事院の行為に関する検査ならびに監察の実施に関すること。
    二 会計の検査を実施し、結果を国会に提出すること。
    三 決算案を国会に提出すること。


    第4章 立法

    第40条
    国会は、国の唯一の立法機関である。

    第41条
    国会は、住民院および国民院の両議院でこれを構成する。
    2 住民院は、すべての日本住民が直接的な利害を有する、国の領域と統治に関わる事項を議決する。
    3 国民院は、すべての日本国民が直接的な利害を有する、国民共同体としての主権を護持するため、住民院および総理を監視し指導する。

    第42条
    住民院は、日本住民を代表すべく、成人たる日本国民の中から選挙された議員で、これを組織する。
    2 国民院は、日本およびそれ以外の地に居住する日本国民を代表すべく、国籍、居住地のいかんを問わず、優れた識見を有する者として法律によって定められた条件を満たした者の中から選挙された議員で、これを組織する。国民院のすべての議員は、任期のあいだにかぎり日本住民と見なす。
    3 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

    第43条
    住民院議員の任期は、四年とする。ただし、住民院が解散した場合には、その期間満了前に終了する。

    第44条
    国民院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。

    第45条
    選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

    第46条
    何人も、同時に両議院の議員たることはできない。

    第47条
    住民院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。
    2 国民院の議員は、無給とする。ただし、法律の定めるところにより、国庫から議員としての活動に要する経費の支給を受ける。

    第48条
    両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

    第49条
    両議院の議員は、議院で行った演説、討論または表決について、院外で責任を問われない。

    第50条
    国会の常会は、毎年一回これを召集する。

    第51条
    総理は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、総理は、その召集を決定しなければならない。

    第52条
    住民院が解散されたときは、解散の日から四〇日以内に、住民院議員の総選挙を行い、その選挙の日から三〇日以内に、国会を召集しなければならない。
    2 住民院が解散されたときは、国民院は、同時に閉会となる。ただし、総理は、国に緊急の必要があるときは、国民院の緊急集会を求めることができる。この場合において、国民院は、住民院の決議すべき事項の中から総理が付託した事案について、議決をなすことができる。
    3 前項ただし書の緊急集会において採られた議決は、住民院の議決と見なす。ただし、この議決は臨時のものであるから、次の国会開会の後一〇日以内に、住民院が同意しない場合には、将来に向かってその効力を失う。

    第53条
    両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。ただし、議員の議席を失わせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

    第54条
    両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き、議決することができない。
    2 両議院において、議員が通信技術等を通じて議場外から出席する方法については、法律でこれを定める。
    3 両議院の議事は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

    第55条
    両議院の会議は、直接および通信技術等を通じて法律の定めるところに従い、公開とする。ただし、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
    2 住民院の会議について、希望する国民院議員は、その議事を視聴し、またその意見を住民院の会議場に表示して住民院議員に提示することができる。これは、通信技術等によって議場外から参加する国民院議員に対しても、可能なかぎり適用する。なお、当該会議が秘密会たる場合、その住民院の会議を聴取し、これに意見を表明する国民院の議員も、会議の秘密を守る義務を有する。
    3 国民院の会議について、秘密会でないかぎり、通信技術等を通じて法律の定めるところにより収集した国民の衆合的意見を会議場に表示して議員に提示しなければならない。この表示は、可能なかぎり、議場外から出席する議員にも提示しなければならない。
    4 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、かつ一般に頒布しなければならない。
    5 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。

    第56条
    両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
    2 両議院は、各々その会議その他の手続および内部の規律に関する規則を定め、また、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。ただし、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

    第57条
    法律案は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、住民院が可決した後、六〇日以内に国民院が出席議員の四分の三以上の多数による拒否の議決を行わなかったとき、法律となる。
    2 前項の規定により国民院が拒否をした法律案は、住民院で議員総数の過半数で再び可決したときは、法律となる。ただし、第五九条第二号ならびに第四号の規定に基づく議決を経て国民院が同条第一号の規定により住民院に提出した法律案については、このかぎりではない。
    3 前項の規定は、法律の定めるところにより、住民院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。

    第58条
    住民院の議決すべき事項は、法律案および予算案のほか、次に掲げる通りとする。国民院は、この事項について、議決を行うことはできない。
    一 条約を批准すること。
    二 総理および政議を信任することならびに不信任すること。
    三 住民院を解散すること。
    四 憲法の改正に関すること。

    第59条
    国民院の議決すべき事項は、この憲法に他に定めのある事項のほか、次に掲げる通りとする。住民院は、この事項について、議決を行うことはできない。
    一 法律案を住民院に提出すること。
    二 決算および行政の監察に関すること。
    三 総理および政議の信任ならびに不信任の動議を住民院に提出すること。
    四 その他、国民院の責務を全うするため、法律で定められた事項。

    第60条
    両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭および証言ならびに記録の提出を要求することができる。

    第61条
    総理その他の政議は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかわらず、いつでも議案について発言するため議院に出席することができる。また、答弁または説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

    第62条
    国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
    2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。


    第5章 司法

    第63条
    すべて司法権は、最高裁判所および法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
    2 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行うことができない。
    3 すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法および法律にのみ拘束される。

    第64条
    最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律および司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
    2 検察官は、最高裁判所の定める規則に従わなければならない。
    3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。

    第65条
    裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。

    第66条
    最高裁判所は、その長たる裁判官および法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、総理がこれを任命する。
    2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行われる住民院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後一〇年を経過した後初めて行われる住民院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
    3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
    4 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
    5 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
    6 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

    第67条
    下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、総理がこれを任命する。その裁判官は、任期を一〇年とし、再任されることができる。ただし、法律の定める年齢に達した時には退官する。
    2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

    第68条
    最高裁判所は、いっさいの法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

    第69条
    最高裁判所は、具体的な事件に付随して審査するのみならず、法律および命令がそれ自体としてこの憲法第73条を充足しているかを審査する。

    第70条
    裁判の対審および判決は、公開法廷でこれを行う。
    2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序または善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行うことができる。ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪またはこの憲法第二部で保障する国民および住民の権利が問題となっている事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。


    第2部 権利

    第6章 原則

    第71条
    国民および住民は、国際人権規約に定める人権の享有を妨げられない。この憲法が国民および住民に保障する基本的人権は、政府の侵すことのできない権利として、現在および将来の国民および住民に与えられる。

    第72条
    この憲法が国民および住民に保障する自由および権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。また、国民および住民は、これを濫用してはならないのであって、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う。

    第73条
    国会および政府は、この憲法が国民および住民に保障する自由および権利を縮減する手段を採用するとき、その採用目的の正当性と手段の必要性、さらに目的と手段の照応を事実に基づいて立証しなければならない。また、その手段は、目的を達成するのに採用しうる手段のうち、国民および住民の自由および権利をもっとも制限しないものでなければならない。

    第74条
    すべて国民および住民は、法のもとに平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係を規定する法において同一の取り扱いを受ける。
    2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
    3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄典の授与は、現にこれを有し、または将来これを受ける者の一代にかぎり、その効力を有する。

    第75条
    すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し、公的にも私的にも責任を問われない。


    第7章 自由

    第76条
    何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。また、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
    2 公務員による拷問および残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。

    77 
    思想、良心および学問の自由は、これを侵してはならない。

    第78条
    信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、または政治上の権力を行使してはならない。
    2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式または行事に参加することを強制されない。
    3 国およびその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

    第79条
    表現、出版、その他いっさいの表現の自由は、これを保障する。この自由は、あらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報および思想を求め、受け、および伝える自由を含む。
    2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
    3 何人も、その私的な生活に係る情報を不当に開示または窃用されることはなく、犯罪に因る処罰の場合を除いては、名誉および信用を毀損されない。このような干渉に対して法の保護を受ける権利を有する。
    4 政府は国際協調を通じて、国境を越えると否とにかかわりなく、本条に定める自由および権利を保障するよう努めなければならない。

    第80条
    集会および結社の自由は、これを保障する。

    第81条
    団結する自由および団体交渉その他の団体行動をする自由は、これを保障する。

    第82条
    何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令または規則の制定、廃止または改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

    第83条
    何人も、公共の福祉に反しないかぎり、居住、移転および職業選択の自由を有する。
    2 何人も、外国に移住し、または国籍を離脱する自由を侵されない。


    第8章 生存

    第84条
    すべて国民および住民は、法律の定めるところにより、身体的および環境的状況に応じて可能なかぎり高度な、健康で文化的な生活を営む権利を有する。

    第85条
    すべて国民および住民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、教育を受ける権利を有する。義務教育は、これを無償とする。

    第86条
    すべて国民および住民は、勤労の権利を有する。
    2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
    3 児童は、これを酷使してはならない。


    第9章 財産

    第87条
    財産権は、これを侵してはならない。
    2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。
    3 私有財産は、正当な補償のもとに、これを公共のために用いることができる。

    第88条
    何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国または公共団体に、その賠償を求めることができる。


    第10章 保障

    第89条
    何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命もしくは自由を奪われ、またはその他の刑罰を科せられない。

    第90条
    何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。
     

    第91条
    何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

    第92条
    何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留または拘禁されない。また、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人およびその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

    第93条
    何人も、その住居、書類および所持品について、侵入、捜索および押収を受けることのない権利は、第九一条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所および押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
    2 捜索または押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行う。

    第94条
    すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
    2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、また、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
    3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

    第95条
    何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
    2 強制、拷問もしくは脅迫による自白または不当に長く抑留もしくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
    3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされない、または刑罰を科せられない。

    第96条
    何人も、実行の時に適法であった行為または既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。また、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。

    第87条
    何人も、抑留または拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。


    第3部 補則

    第11章 改正

    第98条
    憲法第一部の改正は、住民院および国民院それぞれの総議員の三分の二以上の賛成で、国会がこれを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票または国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

    第99条
    憲法第二部に列挙される国民および住民の権利の追加は、住民院の総議員の過半数の賛成で、国会がこれを発議し、住民院および国民院に提案してその承認を経なければならない。この承認には、住民院および国民院それぞれの総議員の三分の二以上の賛成を必要とする。
    2 憲法第二部に列挙される国民および住民の権利については、これを削除できない。

    第100条
    憲法改正について承認を経たときは、総理は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。