教育の充実

Education

自民党は2018年に発表した4項目の憲法改正・追加案に自衛隊の明記、緊急事態条項、参院選の「合区」解消とともに、教育の充実(26条、89条)を入れた。「教育の充実」の争点は高等教育の無償化と私学助成である。自民党は、高等教育機関(含大学、短大、高等専門学校、専門学校)への進学率の上昇を背景に、憲法26条で規定されている義務教育の無償化の範囲を高等教育に拡充すべきである主張している。また自民党は公費の支出や利用の制限を規定する89条を改正し、違憲の指摘のある私学助成(国や地方公共団体による私立学校への助成)の合憲性を明確にすべきだと訴えている。一方で財源の問題を指摘する声、教育の充実に憲法改正は不要という見解、自民党が世論や野党の賛同を得やすい教育問題を本丸である9条等の改正の契機に利用しているといった批判がある。高等教育の無償化については日本維新の会が改憲項目に挙げており、自民党は憲法改正に同党の協力を取り付ける狙いで4項目に入れたに過ぎないのではないかという反発も招いた。

私学助成に関しては、長年合憲性が議論になってきた。憲法89条では「公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業」への公金の支出を制限しているが、私立学校が「公の支配」の下にあるかで見解が分かれている。私立学校においても、設立の許可や教職員免許状の授与などを通じて国(文部科学省)の規制を受けていることから「公の支配」に属しているという見解もある。しかしその解釈を是とすると、例えば法務省所管の会社法を以て民間企業すらも「公の支配」を受けていることになりかねず拡大解釈との指摘もある。そもそも憲法が公費による私学助成を制限する理由には、まず私人による(教育)事業の自主性の確保、営利による公費乱用の防止が挙げられる。また、私立学校は特定の宗教をバックグラウンドに持つ場合が多いため政教分離の原則に抵触する懸念がある。しかし1970年以降には私立学校への進学者急増を受け、私学に対する経常費補助が開始、そして1975年成立の私立学校振興助成法により私学への国や地方公共団体による国会あるいは地方議会の議決に基づく助成が可能になった。助成を受ける学校法人は文部科学大臣または都道府県知事への報告など、国・地方公共団体による所定の監督が義務付けられているため、憲法89条違反に加え、公費の助成により私学の自主性が損なわれているなどの指摘がある。

憲法89条をめぐっては、外国人学校やフリースクールへの助成の合憲性も争点となってきた。憲法(26条)及び教育基本法が規定する普通教育の義務は日本国籍を有する国民に課せられたもので、外国人には当てはまらないと解釈されている。しかし日本政府は子どもの権利条約、国際人権規約等を批准しており、それらの規定に則り国籍に関わらず子どもの教育を受ける権利を保障すべきであると考えられ、公立の小・中学校等で外国人の子どもを無償で受け入れるなどの措置が取られてきた。また多文化教育、民族共生教育推進の観点から、外国人学校への国による支援も広がりつつある。日本のあらゆる学校、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学(含短期大学・大学院)、そして高等専門学校、は一般的に学校教育法の第1条に定められているいわゆる一条校であり、国からの補助金が支給されている。外国政府や国際機関などによって設置される外国人学校の多くは、各種学校に認可されているが、例えば韓国学校などには一部一条校として認定されている例もある。2010年度から高校授業料無償化・就学支援金支給制度が実施され、文部科学大臣が指定する各種学校及び団体も制度の対象となった。しかし2012年12月に当時の下村博文文部科学大臣が拉致問題、国交がないことなどを理由に朝鮮学校は制度の対象外とする方針を正式発表した。この政府の決定には、政治と子どもの学ぶ権利の保障は切り離すべきだという批判が起こった。東京・大阪など各地で朝鮮学校を対象外とする決定は違憲であると主張する訴訟が起きたが、2019年に最高裁が東京の訴訟に関して敗訴を確定、以降他の訴訟にも同様の判決が続いた。

フリースクールについても国の支援は拡充傾向にあると言える。フリースクールは既存の学校制度への批判から発展した進歩的教育運動として始まり、日本では1980年代にドイツの教育学者、ルドルフ・シュタイナー(1861-1925)などの影響を受けたフリースクールの設立が盛んになった。その後、フリースクールは1990年代以降に急増した不登校への支援としての性格を持つようになった。2002年に小泉純一郎内閣期に成立した構造改革特別区域法により、教育分野でも従来の法規制では事業化が不可能であった事業に関して政府に認定を申請することが可能になった。同制度を利用して規制緩和の特区として複数のフリースクールが一条校の認可を受けている。