天皇の地位

Emperor Status

天皇の地位は、憲法改正をめぐって主要な争点の一つである。日本国憲法では天皇を「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」(第1条)と規定している。最大の論点は天皇を日本の元首、つまり対外的に国家を代表する機関として憲法で規定するか否かである。日本国憲法には元首について明確な規定がなく見解が分かれてる。天皇、もしくは内閣、または内閣総理大臣を元首とする説の他に元首不在説もある。多様な見解の背景には「元首」の定義そのものの歴史的変化がある。「元首」は、もともとは君主制を前提に国家のあらゆる統治機能を果たす全能者を意味したが、政治体制の多様化を背景に次第に柔軟性を持つことになった。現代では君主制は君主、共和制は大統領などを元首とすることが一般的であるが、元首の規定及び該当する地位の呼称は国によってさまざまである。絶対君主制、専制君主制では君主があらゆる統治機能を行使するが、立憲君主制ではたとえ君主を元首と規定してもその権限は憲法上の制限を受けることになる。また元首とは厳密には一人だけで組織される単独機関であるが、内閣などの複数の構成員によって意思決定を行う合議機関がその機能を果たす場合もある。日本の象徴天皇は国政に関わることが禁じられているため条約の締結などの外交権を行使しないが、国の儀礼的代表者として天皇を元首と捉える見方がある。なお、天皇が元首であるかをめぐり意見の対立があるため、日本を立憲君主制と見るかについても合意に至っていない。

大日本帝国憲法の規定では、天皇は統治権を総攬する国の元首であり(第4条)、陸海軍の統帥権も有していた(第11条)。また大日本帝国憲法は天皇の存在を神聖不可侵と規定(第3条)、天皇の無答責及びその尊厳を傷つける行為を刑罰の対象とする不敬罪の法的根拠となった。天皇の無答責は、天皇の戦争責任を論じる際に鍵となった。敗戦後の1946年1月の詔勅で昭和天皇自らが天皇の神格を否定し(人間宣言)、天皇は戦後憲法で象徴と規定された。少なからぬ憲法改正案が天皇の元首化を盛り込んでいるが、右派を含めて象徴天皇制維持に関してはほぼ異論はない。2012年の自民党による憲法案では天皇を元首とした上で、象徴としての地位を確認している。他にも、たちあがれ日本による「自主憲法大綱『案』」、駒澤大学の西修ゼミナール作成の『平成憲法草案』、PHP総合研究所(江口克彦・永久寿夫編)『二十一世紀日本国憲法私案』も、いずれも象徴としての国家元首として天皇を位置付けている。また、「新日本国憲法ゲンロン草案」のように、天皇を「象徴元首」、内閣総理大臣を「統治元首」と区別して規定する案もある。