草案を比べる(日本国憲法)

日本国憲法

前文

日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。

日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

第1章 天皇

第1条〔天皇の地位と主権在民〕

天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

第2条〔皇位の世襲〕

皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

第3条〔内閣の助言と承認及び責任〕

天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

第4条〔天皇の権能と権能行使の委任〕

天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。

第5条〔摂政〕

皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。

第6条〔天皇の任命行為〕

天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

第7条〔天皇の国事行為〕

天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。

第8条〔財産授受の制限〕

皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。

第2章 戦争放棄

第9条〔戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認〕

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

第3章 国民の権利及び義務

第10条〔国民たる要件〕

日本国民たる要件は、法律でこれを定める。

第11条〔基本的人権〕

国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

第12条〔自由及び権利の保持義務と公共福祉性〕

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第13条〔個人の尊重と公共の福祉〕

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第14条〔平等原則、貴族制度の否認及び栄典の限界〕

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

第15条〔公務員の選定罷免権、公務員の本質、普通選挙の保障及び投票秘密の保障〕

公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
3 公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
4 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

第16条〔請願権〕

何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

第17条〔公務員の不法行為による損害の賠償〕

何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

第18条〔奴隷的拘束及び苦役の禁止〕

何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

第19条〔思想及び良心の自由〕

思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

第20条〔信教の自由〕

信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

第21条〔集会、結社及び表現の自由と通信秘密の保護〕

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

第22条〔居住、移転、職業選択、外国移住及び国籍離脱の自由〕

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

第23条〔学問の自由〕

学問の自由は、これを保障する。

第24条〔家族関係における個人の尊厳と両性の平等〕

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

第25条〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕

すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

第26条〔教育を受ける権利と受けさせる義務〕

すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

第27条〔勤労の権利と義務、勤労条件の基準及び児童酷使の禁止〕

すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3 児童は、これを酷使してはならない。

第28条〔勤労者の団結権及び団体行動権〕

勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

第29条〔財産権〕

財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

第30条〔納税の義務〕

国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。

第31条〔生命及び自由の保障と科刑の制約〕

何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

第32条〔裁判を受ける権利〕

何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。

第33条〔逮捕の制約〕

何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

第34条〔抑留及び拘禁の制約〕

何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

第35条〔侵入、捜索及び押収の制約〕

何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

第36条〔拷問及び残虐な刑罰の禁止〕

公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。

第37条〔刑事被告人の権利〕

すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

第38条〔自白強要の禁止と自白の証拠能力の限界〕

何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

第39条〔遡及処罰、二重処罰等の禁止〕

何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

第40条〔刑事補償〕

何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

第4章 国会

第41条〔国会の地位〕

国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

第42条〔二院制〕

国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。

第43条〔両議院の組織〕

両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
2 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

第44条〔議員及び選挙人の資格〕

両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

第45条〔衆議院議員の任期〕

衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。

第46条〔参議院議員の任期〕

参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。

第47条〔議員の選挙〕

選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

第48条〔両議院議員相互兼職の禁止〕

何人も、同時に両議院の議員たることはできない。

第49条〔議員の歳費〕

両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。

第50条〔議員の不逮捕特権〕

両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

第51条〔議員の発言表決の無答責〕

両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。

第52条〔常会〕

国会の常会は、毎年一回これを召集する。

第53条〔臨時会〕

内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

第54条〔総選挙、特別会及び緊急集会〕

衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
3 前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。

第55条〔資格争訟〕

両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

第56条〔議事の定足数と過半数議決〕

両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
2 両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

第57条〔会議の公開と会議録〕

両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。
3 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。

第58条〔役員の選任及び議院の自律権〕

両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

第59条〔法律の成立〕

法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

第60条〔衆議院の予算先議権及び予算の議決〕

予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
2 予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

第61条〔条約締結の承認〕

条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。

第62条〔議院の国政調査権〕

両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

第63条〔国務大臣の出席〕

内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。

第64条〔弾劾裁判所〕

国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

第5章 内閣

第65条〔行政権の帰属〕

行政権は、内閣に属する。

第66条〔内閣の組織と責任〕

内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

第67条〔内閣総理大臣の指名〕

内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
2 衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

第68条〔国務大臣の任免〕

内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。

第69条〔不信任決議と解散又は総辞職〕

内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

第70条〔内閣総理大臣の欠缺又は総選挙施行による総辞職〕

内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。

第71条〔総辞職後の職務続行〕

前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。

第72条〔内閣総理大臣の職務権限〕

内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。

第73条〔内閣の職務権限〕

内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。

第74条〔法律及び政令への署名と連署〕

法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。

第75条〔国務大臣訴追の制約〕

国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。

第6章 司法

第76条〔司法権の機関と裁判官の職務上の独立〕

すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
3 すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

第77条〔最高裁判所の規則制定権〕

最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。

第78条〔裁判官の身分の保障〕

裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。

第79条〔最高裁判所の構成及び裁判官任命の国民審査〕

最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
4 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
5 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
6 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

第80条〔下級裁判所の裁判官〕

下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

第81条〔最高裁判所の法令審査権〕

最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

第82条〔対審及び判決の公開〕

裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

第7章 財政

第83条〔財政処理の要件〕

国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

第84条〔課税の要件〕

あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

第85条〔国費支出及び債務負担の要件〕

国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。

第86条〔予算の作成〕

内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。

第87条〔予備費〕

予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
2 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

第88条〔皇室財産及び皇室費用〕

すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。

第89条〔公の財産の用途制限〕

公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

第90条〔会計検査〕

国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。

第91条〔財政状況の報告〕

内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。

第8章 地方自治

第92条〔地方自治の本旨の確保〕

地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

第93条〔地方公共団体の機関〕

地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

第94条〔地方公共団体の権能〕

地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

第95条〔一の地方公共団体のみに適用される特別法〕

一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

第9章 改正

第96条〔憲法改正の発議、国民投票及び公布〕

この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

第10章 最高法規

第97条〔基本的人権の由来特質〕

この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

第98条〔憲法の最高性と条約及び国際法規の遵守〕

この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

第99条〔憲法尊重擁護の義務〕

天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

第11章 補則

第100条〔施行期日と施行前の準備行為〕

この憲法は、公布の日から起算して六箇月を経過した日〔昭二二・五・三〕から、これを施行する。
2 この憲法を施行するために必要な法律の制定、参議院議員の選挙及び国会召集の手続並びにこの憲法を施行するために必要な準備手続は、前項の期日よりも前に、これを行ふことができる。

第101条〔参議院成立前の国会〕

この憲法施行の際、参議院がまだ成立してゐないときは、その成立するまでの間、衆議院は、国会としての権限を行ふ。

第102条〔参議院議員の任期の経過的特例〕

この憲法による第一期の参議院議員のうち、その半数の者の任期は、これを三年とする。その議員は、法律の定めるところにより、これを定める。

第103条〔公務員の地位に関する経過規定〕

この憲法施行の際現に在職する国務大臣、衆議院議員及び裁判官並びにその他の公務員で、その地位に相応する地位がこの憲法で認められてゐる者は、法律で特別の定をした場合を除いては、この憲法施行のため、当然にはその地位を失ふことはない。但し、この憲法によつて、後任者が選挙又は任命されたときは、当然その地位を失ふ。

中曽根康弘世界平和研究所

中曽根康弘世界平和研究所

「平和研憲法試案」1
2005年7月3日


前文

我ら日本国民はアジアの東、太平洋の波洗う美しい北東アジアの島々に歴代相承け、天皇を国民統合の象徴として戴き、独自の文化と固有の民族生活を形成し発展してきた。

我らは今や、長い歴史の経験のうえに、新しい国家の体制を整え、自主独立を維持し、人類共生の理想を実現する。

我が日本国は、国民が主権を有する民主主義国家であり、国政は国民の信頼に基づき国民の代表者が担当し、その成果は国民が享受する。

我らは自由・民主・人権・平和の尊重を基本に、国の体制を堅持する。

我らは国際社会において、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、その実現に貢献する。

我らは自由かつ公正で活力ある日本社会の発展と国民福祉の増進に努め、教育を重視するとともに、自然との共生を図り、地球環境の保全に力を尽くす。また世界に調和と連帯をもたらす文化の重要性を認識し、自国の文化とともに世界文化の創成に積極的に寄与する。

我ら日本国民は、大日本帝国憲法及び日本国憲法の果たした歴史的意義を想起しつつ、ここに新時代の日本国の根本規範として、我ら国民の名において、この憲法を制定する。

第1条〔天皇の地位〕
天皇は、国民に主権の存する日本国の元首であり、国民統合の象徴である。


第1章 国民主権

第2条〔国民主権、主権の行使方法〕
日本国の主権は国民に存し、国民は国会における代表者及び国民投票によって主権を行使する。

第3条〔選挙〕
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利であり、責務である。
2 公務員の選挙については、成年者による普通選挙、自由選挙及び秘密選挙並びに投票価値の平等を保障する。
3 選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない。

第4条〔政党〕
国民は、自由に政党を結成することができる。
2 政党は、国民主権の原理を尊重するとともに、国民の政治的意思形成に協力し、民主政治の発展に努めなければならない。

第5条〔国の説明責任〕
国は、国民の主権の行使に資するため、法律の定めるところにより、国務に係る情報の開示を行い、国民に対して説明責任を果たさなければならない。


第2章 天皇

第6条〔皇室典範〕
皇位は世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

第7条〔天皇の権能〕
天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
3 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣総理大臣の助言と承認を必要とし、内閣総理大臣がその責任を負う。

第8条〔摂政〕
皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行う。この場合には、前条第一項の規定を準用する。

第9条〔天皇の任命権〕
天皇は、衆議院の指名に基づいて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、国会の指名に基づいて、憲法裁判所の長たる裁判官を任命する。
3 天皇は、内閣総理大臣の指名に基づいて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
 

10条〔天皇の国事行為〕
天皇は、内閣総理大臣の助言と承認により、国民のために、次の国事に関する行為を行う。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会召集の詔書を発すること。
三 衆議院の解散詔書を発すること。
四 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の公務員の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行うこと。


第3章 安全保障及び国際協力

第11条〔戦争放棄、安全保障、防衛軍、国際平和等の活動への参加、文民統制〕
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久に認めない。
2 日本国は、自らの平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つため、防衛軍をもつ。
3 日本国は、国際の平和及び安全の維持、並びに人道上の支援のため、国際機関及び国際協調の枠組みの下での活動に、防衛軍を参加させることができる。
4 防衛軍の指揮監督権は、内閣総理大臣に属する。防衛軍に武力の行使を伴う活動を命ずる場合には、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を得なければならない。


第4章 国民の権利及び義務

第12条〔国民の要件〕
日本国民たる要件は、法律でこれを定める。

第13条〔基本的人権〕
何人も、生来の権利として、すべての基本的人権を享有する。この憲法が保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。
2 前項の権利は、権利の性質上制約されるものを除き、外国人に対してもひとしく保障される。

第14条〔自由及び権利〕
この憲法が保障する自由及び権利は、各人の不断の努力によって保持するとともに、これを濫用してはならない。
2 何人も、相互に自由及び権利を尊重しなければならない。

第15条〔個人の尊重及び生命、自由、幸福追求権〕
すべて人は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福を追求する権利については、公共の利益に反しない限り、立法その他の国政の上で、最も尊重されなければならない。

第16条〔法の下の平等〕
すべて人は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、住所又は社会的身分により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄誉、勲章その他の栄典の内容は法律でこれを定める。
4 栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

第17条〔公務員の本質〕
すべて公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。常に公務員は、この憲法が保障する自由及び権利の実現に努めなければならない。

第18条〔思想及び良心の自由〕
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

第19条〔信教の自由、公的支出の禁止〕
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、特定の宗教を援助、助長若しくは促進又は圧迫若しくは干渉となるような宗教的活動をしてはならない。

第20条〔表現の自由〕
言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲はしてはならない。
3 通信の秘密は、これを侵してはならない。

第21条〔集会、結社の自由〕
集会、結社の自由は、これを保障する。

第22条〔学問の自由、創造活動の自由〕
学問の自由は、これを保障する。
2 芸術、学術、科学技術及びその他の創造活動の自由は、これを保障する。知的財産権は法律の定めるところにより保護される。

第23条〔人格権〕
何人も、自己の名誉、信用その他の人格を不当に侵害されない。
2 何人も、自己の私事及び家庭にみだりに干渉されず、また第三者に公開されない権利を有する。

第24条〔苦役からの自由〕
何人も、犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

第25条〔居住及び移転の自由〕
何人も、居住及び移転の自由を有する。
2 何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を有する。

第26条〔職業選択及び営業の自由〕
何人も、公共の利益に反しない限り、職業選択及び営業の自由を有する。

第27条〔財産権〕
財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の利益に適合するように、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。

第28条〔家庭、家族関係における個人の尊厳と両性の平等〕
家庭は社会を構成する基本的な単位である。何人も、各自、その属する家族の維持及び形成に努めなければならない。
2 婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚するものであり、国家はこれを保護する。
4 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

第29条〔生存権、国の努力義務〕
何人も、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

第30条〔環境権〕
何人も、良好な環境を享受する権利を有し、その保全に努める義務を負う。
2 国は、良好な環境の保全に努めなければならない。

第31条〔教育を受ける権利〕
何人も、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 何人も、法律の定めるところにより、その保護する子どもに普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、これを無償とする。

第32条〔勤労の権利及び義務〕
何人も、勤労の権利を有し、義務を負う。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
3 児童は、これを酷使してはならない。

第33条〔労働者の団結権〕
勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。

第34条〔納税の義務〕
何人も、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。

第35条〔平和と独立を守る責務〕
すべて国民は、国の平和と独立を守る責務を負う。

第36条〔法定手続きの保障〕
何人も、適正な法律の定める手続きによらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰及び行政処分を科せられない。

第37条〔裁判を受ける権利〕
何人も、裁判所において裁判を受ける権利を保障される。

第38条〔逮捕の要件〕
何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する裁判官が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

第39条〔留置又は勾留の要件〕
何人も、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、留置又は勾留されない。また、何人も、正当な理由がなければ、勾留されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

第40条〔住居の不可侵〕
何人も、第三十八条の場合を除いては、正当な理由に基づいて発せられ、かつ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることはない。
2 捜索又は押収は、権限を有する裁判官が発する各別の令状により、行わなければならない。

第41条〔拷問及び残虐刑の禁止〕
公務員による拷問及び残虐な刑罰は禁ずる。

第42条〔刑事被告人等の権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、又、公費で自己のために強制的手続きにより証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人及び勾留された被疑者は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを付する。

第43条〔刑事被告人の権利〕
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く留置若しくは勾留された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

第44条〔遡及処罰の禁止、一事不再理〕
何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。また、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。

第45条〔刑事補償請求権〕
何人も、留置又は勾留された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

第46条〔請願権〕
何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

第47条〔賠償請求権〕
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。


第5章 国会

第48条〔立法権〕
立法権は国会に属する。

第49条〔両院制〕
国会は、衆議院及び参議院の両議院で構成する。

第50条〔両議院の組織〕
両議院は、全国民を代表する選挙された議員で組織する。
2 両議院の議員の定数は、法律で定める。

第51条〔議員及び選挙人の資格〕
両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律で定める。ただし、人種、信条、性別、住所、社会的身分、教育、財産又は収入によって差別してはならない。

第52条〔衆議院議員の任期〕
衆議院議員の任期は、四年とする。ただし、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。

第53条〔参議院議員の任期〕
参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。

第54条〔選挙に関する事項〕
選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律で定める。ただし、衆議院議員は、国民が直接選挙しなければならない。

第55条〔両議院議員の兼職の禁止〕
何人も、同時に両議院の議員たることはできない。

第56条〔議員の歳費〕
両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。

第57条〔議員の不逮捕特権〕
両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中釈放しなければならない。

第58条〔議員の発言及び表決の無責任〕
両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない。

第59条〔常会〕
国会の常会は、毎年一回召集する。

第60条〔臨時会〕
内閣総理大臣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣総理大臣は、その召集を決定しなければならない。

第61条〔衆議院の解散、特別会、参議院の緊急集会〕
衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
2 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。ただし、内閣総理大臣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
3 前項ただし書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであって、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失う。

第62条〔資格争訟の裁判〕
両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。ただし、議員の議席を失わせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

第63条〔定足数、表決〕
両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ議決することができない。
2 両議院の議事は、この憲法に特別の規定のある場合を除いては、出席議員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

第64条〔会議の公開、秘密会、会議の記録〕
両議院の会議は、公開とする。ただし、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は公表し、かつ一般に頒布しなければならない。
3 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は会議録に記載しなければならない。

第65条〔役員の選任、議員規則〕
両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続き及び内部の規律に関する規則を定め、また、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。ただし、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

第66条〔法律案の議決、衆議院の優越〕
法律案は、この憲法に特別の規定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なった議決をした法律案は、衆議院で再び可決したときは、法律となる。
3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
4 第二項の規定による衆議院の再議決は、参議院の議決後、国会休会中の期間を除いて六十日を経なければならない。
5 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

第67条〔衆議院の予算案先議、衆議院の優越〕
予算案は、さきに衆議院に提出しなければならない。
2 予算案について、参議院で衆議院と異なった議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算案を受け取った後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

第68条〔条約の承認、衆議院の優越〕
条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。

第69条〔公務員の任命への同意〕
法律で定める重要な公務員の任命については、参議院の同意を得なければならない。

第70条〔国政調査権〕
両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。この調査は、各々その総議員の十分の一以上の賛成があるときには、行わなければならない。
2 両議院は、前項の調査を行った場合には、その結果の記録を保存し、特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表しなければならない。

第71条〔閣僚の議会での答弁の義務と議会出席の権利〕
両議院は、内閣総理大臣及び国務大臣に対して、答弁又は説明のため出席を求めることができる。内閣総理大臣及び国務大臣は出席を求められたときは、議院に出席しなければならない。
2 また、内閣総理大臣及び国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかわらず、何時でも議案の内容及びその取り扱いについて発言するため議院に出席することができる。

第72条〔弾劾裁判所、訴追委員会〕
参議院に、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、参議院議員で構成される弾劾裁判所を設ける。
2 衆議院に、前項の訴追のため、衆議院議員で構成される訴追委員会を置く。
3 訴追及び弾劾に関する事項は、法律で定める。


第6章 内閣総理大臣

第73条〔行政権、国会への責任〕
行政権は、内閣総理大臣に属する。
2 内閣総理大臣は、行政権の行使について、国会に対し責任を負う。

第74条〔内閣総理大臣の推挙〕
総選挙は、衆議院議員選出と内閣総理大臣推挙のために行われる。
2 政党は、総選挙に際し、内閣総理大臣候補を明示しなければならない。

第75条〔内閣総理大臣の指名〕
内閣総理大臣は、衆議院議員の中から衆議院の議決で指名する。この指名は、他のすべての案件に先立って行う。
2 前項の指名にあたって、過半数の得票者のない場合には、投票の最多数を得た者二人につき、更に投票を行い、多数の得票を得た者を指名することとする。

第76条〔内閣総理大臣の解散権、内閣総理大臣不信任決議〕
内閣総理大臣は、衆議院を解散することができる。
2 内閣総理大臣は、衆議院で不信任の決議案が可決され、又は信任の決議案が否決されたときは、衆議院を解散しなければならない。

第77条〔内閣の構成〕
内閣は、法律の定めるところにより、内閣総理大臣及びこれを補佐する国務大臣で構成される。
2 内閣総理大臣及び国務大臣は、文民でなければならない。

第78条〔国務大臣の任命及び罷免〕
内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。ただし、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、国務大臣を罷免することができる。

第79条〔内閣の総辞職〕
衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があったときは、内閣は、総辞職をしなければならない。
2 前項の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続き憲法の定める職務を行う。

第80条〔内閣総理大臣の臨時代理〕
内閣総理大臣に事故あるとき、又は内閣総理大臣が欠けたときは、そのあらかじめ指定する国務大臣が内閣総理大臣の職務を行う。

第81条〔内閣総理大臣の職務権限〕
内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本方針を定め、これについて責任を負う。
2 内閣総理大臣は、法律案、予算案その他の議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告する。
3 内閣総理大臣は、行政各部を指揮監督する。

第82条〔国務大臣の職務権限〕
国務大臣は、法律の定めるところにより、主任の大臣として行政事務を分担管理する。
2 国務大臣は、内閣総理大臣が定めた基本方針に基づき、自らの責任において、自己の分担する行政事務を行う。

第83条〔内閣総理大臣の職務〕
内閣総理大臣は、国務大臣の補佐を受けて、他の一般行政事務のほか、次の事務を行う。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。ただし、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を得ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従い、公務員に関する事務を掌理すること。
五 予算案を作成すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。

第84条〔国民投票〕
内閣総理大臣は、自ら提出した法律案について、国民投票に付託することができる。
2 前項の場合には、それに先だって、両議院において、各々その総議員の三分の一以上の同意を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、国民投票の結果を国会に説明する義務を負う。
4 国会は、法律案が国民投票に付された場合には、その結果にしたがわなければならない。
5 国民投票に関する事項は、法律で定める。

第85条〔法律及び政令への署名〕
法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。

第86条〔国務大臣の特権〕
国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。ただし、これにより、訴追の権利は、害されない。

第87条〔緊急事態の宣言、指揮監督権〕
内閣総理大臣は、国の独立と安全又は多数の国民の生命、身体若しくは財産が侵害され、又は侵害される恐れがある事態が発生し、その事態が重大で緊急に対処する必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、全国又は一部地域について、緊急事態の宣言を発することができる。
2 内閣総理大臣は、緊急事態の宣言を発した場合には、法律に基づき、防衛軍のほか、警察、海上保安、消防その他の行政機関を統制するとともに、地方公共団体の長を直接指示することができる。

第88条〔国会承認と宣言の解除〕
内閣総理大臣は、緊急事態の宣言を発したときは、二十日以内に国会に付議して、その承認を求めなければならない。衆議院が解散されているときは、緊急集会による参議院の承認を求めなければならない。
2 内閣総理大臣は、国会が緊急事態の宣言を承認しなかったとき、又は宣言の必要がなくなったときは、すみやかに宣言を解除しなければならない。

第89条〔緊急措置、基本的人権の尊重、公正な手続き〕
内閣総理大臣は、緊急事態の宣言を発した場合には、国民の生命、身体又は財産を守るために必要最小限のものと法律が認める範囲内で、この憲法が保障する自由及び権利を制限する緊急の措置をとることができる。
2 内閣総理大臣は、前項の措置をとる場合には、基本的人権を尊重しなければならない。
3 第一項の措置は、公正かつ適正な手続きの下に行われるものとし、その実施に係る国民の権利利益の救済に係る手続きについても、迅速に処理されなければならない。


第7章 裁判所

第90条〔司法権、特別裁判所の禁止、裁判官の職務上の独立〕
すべて司法権は、憲法裁判所、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行うことができない。
3 すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。

第91条〔憲法裁判所の違憲審査権〕
憲法裁判所は、一切の条約、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

第92条〔憲法裁判所の管轄〕
憲法裁判所は、次の事項を管轄する。
一 条約、法律、命令、規則又は処分について、内閣又はいずれかの議院の総議員の三分の一以上の申し立てがあった場合に、法律の定めるところにより、憲法に適合するかしないかを審判すること。
二 具体的訴訟事件で、最高裁判所又は下級裁判所が求める事項について、法律の定めるところにより、憲法に適合するかしないかを審判すること。
三 具体的訴訟事件の当事者が最高裁判所の憲法判断に異議がある場合に、法律の定めるところにより、その異議の申し立てについて、審判すること。

第93条〔憲法裁判所の違憲判断の効力〕
憲法裁判所が、条約、法律、命令、規則又は処分について、憲法に適合しないと決定した場合には、その決定は、それ以降、国及び地方公共団体を拘束する。

第94条〔憲法裁判所の裁判官、任期、報酬〕
憲法裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、半数ずつ、国会及び内閣総理大臣が任命する。
2 憲法裁判所の裁判官は、任期を十年とし、再任されない。
3 憲法裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

第95条〔最高裁判所の裁判官、任期、報酬〕
最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣総理大臣が任命する。
2 最高裁判所の裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。
3 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

第96条〔下級裁判所の裁判官、任期、定年、報酬〕
下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣総理大臣が任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。ただし、法律の定める年齢に達した時に退官する。
2 下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。

第97条〔最高裁判所、憲法裁判所の規則制定権〕
最高裁判所は、訴訟に関する手続き、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 前項のうち、憲法裁判所に関する事項については、憲法裁判所がその規則を定める権限を有する。
3 検察官は、憲法裁判所及び最高裁判所が定める規則に従わなければならない。
4 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。

第98条〔裁判官の身分保障〕
裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。

第99条〔裁判の公開〕
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行う。
2 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行うことができる。ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第四章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。


第8章 財政

第100百条〔財政処理の基本原則〕
国の財政は、国会の議決に基づいて、内閣総理大臣が処理する。
2 国は、健全な財政の維持及び運営に努めなければならない。

第101条〔課税〕
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。

第102条〔国費の支出及び国の債務処理〕
国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基づくことを必要とする。

第103条〔予算案、継続費〕
内閣総理大臣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
2 特別に継続支出の必要があるときは、年限を定め、継続費として国会の議決を経なければならない。

第104条〔予備費〕
予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣総理大臣の責任でこれを支出することができる。
2 すべて予備費の支出については、内閣総理大臣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

第105条〔皇室財産〕
すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算案に計上して国会の議決を経なければならない。

第106条〔公の財産の用途制限〕
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業であって、法律で定めるものに対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

第107条〔決算検査、会計検査院〕
国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣総理大臣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。

第108条〔財政状況の報告〕
内閣総理大臣は、国会及び国民に対し、定期に、少なくとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。


第9章 地方自治

第109条〔地方自治の基本原則〕
地方自治は、地方公共団体及びその住民が、地域における住民の日常生活に密接な関連性を有する事務を、自らの意思及び責任において行うことを原則とする。
2 地方公共団体の組織、権能及び運営に関する事項は、前項の原則を尊重し、法律でこれを定める。

第110条〔地方議会、長・議員等の直接選挙〕
地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の公務員は、その地方公共団体の住民が、直接選挙する。

第111条〔地方公共団体の権能、条例制定権、課税権〕
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の趣旨の範囲内で条例を制定することができる。
2 地方公共団体は自らの権能の実施のために、条例により租税を課すことができる。また、その財政は健全に維持及び運営されなければならない。

第112条〔特別法の住民投票〕
特定の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。


第10章 改正

第113条〔改正の手続き及び公布〕
この憲法の改正は、各議院の総議員の過半数の賛成で、国会が発議し、国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を得たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。


第11章 最高法規

第114条〔憲法の最高性〕
この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する条約、法律、命令及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

第115条〔国際法規の遵守〕
日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

第116条〔憲法尊重擁護義務〕
天皇又は摂政及び内閣総理大臣、国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。